| 05.拒絶は可能 |
その日、数学と化学と物理が得意なテニス部の仲間が目の前に突然突きつけてきたのは、「変人で悪かったな」という言葉と正体不明のドリンクだった。 「不二! お前言っただろ!」 「さあ、僕は知りません」 冬のわずかな温もりを享受するばかりテニスコート、そのフェンス際まで押し込まれる。最後の反撃と称して道連れとせんがために不二に怒鳴ったが、ラケット片手の親友には今日も笑顔でさらりと逃げられた。 逃げ道も救援の手もない英二に残されたのは、中学の頃よりもその背丈を伸ばしてきた理系の「変人」。 「俺からすれば文系の英二の方が変人だ」 しっかりと反撃の一言を口にして、そのまま無言の重圧とともに乾はペットボトルを差し出す。ラベルの剥がされたそのボトルの中には、得体の知れない(もはや何色とも形容しがたい)水溶液が静かに波打っていた。 遠くで桃城と海堂が目を見張っているのが見える。1年間活動の場所が離れていた後輩たちは今年新たに青春学園高等部の1年生として、つまり英二たちの後輩としてその活躍の場所を同じくした。1年離れていたといっても、やはりこの光景は見るも懐かしい、それでもやはりおぞましいものなのだろう。ただ好奇心には負けて興味津々な瞳の色をするあたりは昔とまったく変わっていなかったが。 「……俺は文系としての素直な気持ちを言ったまでなんですけど」 「それは否定しない。否定はしないが、このドリンクの効能も俺は否定しない」 「……」 いつかこの見下ろされる高低関係から卒業できるのではないかと思ったのも今となっては遠い昔。結局高校2年生になっても乾の現在の身長はおろか、彼の中等部時代の記録すら抜けない英二は、屈辱に涙を飲みながらも静かにそのペットボトルを手に取る。 今が3年生なら、後輩が2学年に渡っていたら。先輩特権を行使し、問答無用でこれを最年少後輩の越前に飲ませてやるのに。 今年中等部3年生に在籍し、男子硬式テニス部部長として見事全国大会出場を果たした懐かしい後輩を思い出しながらキャップを恐る恐る捻れば、今すぐ乾の顔面にぶつけてやりたいほどの悪臭が鼻をつく。予想以上の「効能」に英二が思わずキャップを閉めようとすれば、しかしその手はあっさりと自分のものよりも大きな手に止められた。 「さあ、飲め。英二の身体を考えて作った特別栄養剤だ、飲まないと罰が当たるぞ」 「なんの罰だよ……! というかお前はいい加減、効能じゃなくて味を調整できるようになれよ! どうしていつも劣化してくんだよ!」 「魚の神の罰だ。栄養価を疑う者には幸福などありえない。そして良薬ほど口に苦い、それが世間の常識だ」 「……真顔で言うなよ、そんなこと」 だから理系は嫌なんだよ、その一言を呟くとペットボトルがさらに口元に近づく。 背後はフェンス、右斜め前は笑顔で見守る不二に極めつけは左斜め前の手塚の背中。どこにも逃げ場はないのは誰の目にも明らかだった。 そのような状況下において、懐かしくもおぞましい衝撃的なその匂いに顔を背けようとしたその時。しかし中枢神経は別の命令を発動させてしまったらしく。 「お見事、英二」 「素晴らしい。見事な飲みっぷりだ」 感嘆の声を上げる乾と不二の顔はどこまで確かめられたのか、記憶は定かではない。 右手にペットボトルを、視界には不二と乾を。けれど味覚には、例えようのない衝撃を。 それらに気づいてしまったが最後、突如として全身に駆け巡る不味さの極地が織り成す五感への強烈な攻撃に、キャップをしめることも忘れてペットボトルを投げ捨て、そのままコートの外へと走り去る。 「菊丸、どこへ行く! 誰も休憩とは言っていないぞ!」 そんな手塚の怒声に恐怖を覚えるよりも早く、足は素直に水飲み場へと直行していた。 「ふざけんなよ、バカ乾……!」 怒りに任せて吐き捨てる。しかしそれは叫び言葉ではない。むしろ周りに誰もいないこの水飲み場において、誰に聞かせるつもりもなく呟いた敗北の言葉だった。 英二は吐水口を天へと向かせ、めいいっぱいひねった蛇口の勢いに任せて吹き出てくる冷たい水道水を口の中へと流し込む。しかし何回口の中をすすいでも悪夢のようなあの感覚は中々消え去ってくれそうになかった。 中学の頃は幾度と知れず口にした乾貞治オリジナルドリンクではあるが、ついにデビュー3年目を迎えた今年は威力が破滅的と言えるほどまでに進化していた。中等部当時、なぜあのレベルで卒倒していたのか英二は自分のことながら皆目分からなかった。 「何の効果があるのかもっとはっきり言えっての、せめて」 冷たい冬の水に口の中の感覚が麻痺しかけてからようやくため息をひとつ。躊躇する暇もなく水だけを求めた結果、顔にもその水は当たって整髪料で左右へと流していた前髪は水滴を吸って視界の中へと垂れ下がってきていた。 夕方前とはいえ、ひんやりとした冬の風が吹きつける青春学園高等部テニスグラウンド。 英二はやっとの思いで顔を上げ、一度大きく息を吐いて呼吸を整えた後、水道台で両手を支えてから軽く頭を振る。寒々しい灰色のアスファルトの上に水滴が飛び散り、黒い斑点ができたのが見えた。 「菊丸先輩!」 その時、背後から突然声が飛んだ。 口元をぐっと手の甲で拭っていた、まさにその姿勢のまま英二は振り返る。振り返ったその先、テニスコートの緑色のフェンスが高々とそびえている光景が目に入ってくるその中に、1年生のジャージを着た女子が立っていた。 「……あれ。どうかした?」 それは、今年桃城たちと同時に入部してきた女子マネージャーだった。中等部の頃には無縁のもので、かつ同学年には存在しなかった年下のマネージャーの姿に英二は一瞬目を丸くする。 そんな英二の視線を真正面から受けて、走ってきたのだろうか幾分か頬を紅潮させながらマネージャーは無言のまま、そっと手にしていたタオルを差し出した。 「あ、あの……先輩、絶対頭から水をかぶると思って」 「え? ああ、まあ、確かに。濡れたか、ちょっと」 「そのままだと、その」 「あー、ありがと。ごめんねわざわざ」 言葉はそれ以上なかったが、彼女の言わんとしていることぐらい安易に分かる。英二は差し出された真っ白なタオルを素直に受け取り、思い切り顔を覆った。 ただ、なにも言わなくても分かるというのは時々残酷なものだと静かに思う。 わずかに残るタオルの温かみは彼女のものだろう。それがなにを意味するのか、自惚れと言われることを覚悟のうえでも英二はその考えを否定することはできなかった。 (……不二と仲良くなってから、俺も色んな意味で色んなことを知ったなあ……) 妙に世の中の様々なことに聡いあの親友を一瞬脳裏に思い浮かべてから、そっと英二は顔からタオルを離す。そして視界の中央に、自分よりも随分と背丈の小さい後輩マネージャーを迎える。素肌の白い彼女の頬がいまだ微かに珊瑚色に染められていることの意味は、冬の寒さに教えてもらわなくても分かっていた。 しばらくその様子を見つめた後、英二は小さく息を吐いて尋ねた。 「手塚に怒られなかった? 大丈夫? 抜け出したりして」 「え?」 「俺は『休憩はまだだ!』って怒られたからなあ、まあ不可抗力だけど」 静かに流れていた沈黙の中、唐突に話を振られたマネージャーは一瞬驚いて肩を震わせる。けれど英二の先を促すかのような沈黙と、首を傾げて相手を見つめるその視線に、彼女は慌てて首を横に振った。 「だ、大丈夫です! しっかり言ってきましたから!」 「しっかり? しっかりって……それはまた、なんというか」 「本当に大丈夫ですから。だって、ここで先輩が風邪をひいて次の練習試合に影響したら、そんなの私……わっ!」 わずかに視線が落ちたその時、英二は白いタオルを放り投げてその言葉を途切れさせる。後輩は自分の言葉が遮られたことに対する嫌悪感よりも前に、突然寄越されたタオルを抱きしめたままただ唖然として英二を見上げた。 「平気、平気。俺、風邪には結構強いから。タオルありがとな」 そして笑顔でその言葉を送れば、それ以上彼女の言葉を聞くことはない。 それは彼女にしてみればせっかくの一瞬をあっさりと殺されてしまったに他ならない、優しさの欠片もない偽善じみた笑顔と言葉だったかもしれないが、英二にとってはそれが精一杯の「してあげられること」だった。 いつも教室で浮かべるように。親しみをもって近づいてくる名も知らぬ女子に向けるように。英二はもう一度口の端を緩やかに上げてそっと笑い、マネージャーの横を通り過ぎる。 「……先輩、コートに戻らないんですか?」 「少し休憩してから戻るよ。レギュラーメニューはあとできちんとやるから」 その声が聞こえてきたのは、タオルを渡された時とまったく同じ背中からだ。けれど今度は振り返らない。英二は軽く右手を上げた後、緑色のフェンスを横目に見ながら水飲み場をあとにする。 それがたとえ自分のできる精一杯だと信じて疑わなくとも、偽善と紙一重であることは十分に承知していたけれど。 「優しいのか優しくないのか。線引きの難しいところだね」 けれどしばらくコート沿いに歩を進めていたその時、背後から突然投げかけられた親友の言葉に英二は返せるものをもっていなかった。立ち止まり、そしてポケットに両手を入れたまま英二は振り返る。そこに予想通り不二の姿を見つけて、静かに肩をすくめた。 「なに言ってんだ、これでも十分気を遣ってるっていうのに。俺に求めすぎじゃないの」 「あの子はその先を望んでいるからね。英二は健闘しているようで、でも実はなにも変わっちゃいないよ」 「優しくないよなー、お前。分かってたけど」 「英二も相変わらずだよね、分かっていたけど」 どこから見られていたのだろう、それを問いかけるまでもなく不二はなにもかもを見透かした顔で英二の横に並ぶ。 そこはコートの入り口から少し離れたフェンスの外側。規則正しくひし形を編みだす金網越しに仲間の姿を見つめれば、ベンチ脇で乾が手塚と話しているのが見える。大方今度の練習試合のことについてだろう。不二と自分、レギュラーがふたりも練習をさぼっているのに気づかないほど手塚が考え込むものといえばそれしかなかった。 「嫌いじゃないなら付き合うのもありかなとは思うけどね、僕は。あの子の性格の良さは今更口にするまでもないだろうし」 その時、英二と同様フェンスの向こうを見つめながら不二がそっと呟く。英二がその視線の先を追えば、いつのまにかコート内に戻っていた1年生マネージャーがいつも通りの顔で大石と練習メニューの打ち合わせをしていた。 そんな見慣れた光景をしばらく黙ったまま見つめる。けれど英二は、静かに首を横に振った。 「それはない。部活内でそういうことはしたくないよ、俺」 「まあ、それは確かに」 「それに俺、あの子のことは嫌いじゃないけどだからといって特別好きでもない。あー、違うか。好きか嫌いかって聞かれたら普通に好きだけど、それじゃ意味がないんだよな」 「そうだね。それはあの子の求めている感情とは異なるものだろうからね」 「面倒だなあ、そういうの」 重いため息とともに頭をかく。今となっては不二の淡々とした声の方が、よほど心に優しく感じた。 今年、17歳。曲がりなりにも17年、英二は自分の性格と付き合ってきた。 このご時世では随分と珍しくなった5人兄弟の末っ子として生まれた自分の性格は熟知していた。甘え上手、逃げ上手。愛想を振りまくことだけなら大抵の女子と同等に近いレベルで渡り合える自信がある。そして単に多いのではなく年の近い兄弟が多い家族においては、末っ子はさらに要領のよさまで求められ、また自然と鍛え上げられる。生まれた時に既に4人の強者をもっていた末っ子の英二にとって、それは避けては通れぬ道であった。 そんな「人に好かれる」ための態度のバリエーションを多くもっている英二が、逆にこれまで見つけることができなかったもの。 それが、均等以外の愛情の抱き方、与え方。 「俺からすれば、相手を嫌いになることの方がよっぽど難しいだけなんだけど。ひとりだけを特別に思うのと同じぐらいにさ」 付き合った相手がいなかったわけではない。ただそのどれもが長続きをしなかったというだけの話だ。友達から恋人へ、その変化に付随する感情を相手に求められても、それに応えられるだけの恋愛感情の抱き方を英二が知らなかっただけだ。与え方の加減が分からなかっただけだ。 そんな自分の性格は得をしているのか損をしているのか、英二にはまだよく分からない。ただ得であるだけでもない代わりに損であるだけでもない。その事実が目の前にある以上、自分の性格を変えてまで相手に合わせた恋愛をする気にはなれない。言ってしまえばただそれだけ、けれど親しい親友以外は誰も知らない隠れた秘密だった。 「まあ、それだけ友達全員を大事にすることができる証拠でもあるんだけどね」 知り合って5年目、けれどその5年の間に様々な出来事を共有してきた無二の親友は、英二のそんな呟きにいつも通りの笑みを浮かべ、苦笑を口にした。 「でも英二のその考えは、誰も変えることはできないからどうしようもないよね。それこそ、僕ですら」 不二は諭す言葉を難なく使い分け、英二もかつて数え切れないほどそれらに出会ってきた。しかしそれが今まで一般的なものから外れていたことは一度たりとてない。 その不二が、自分の考え方を暗に肯定している。それは英二にとってとても大きな力であり、また安堵感をもたらすものだった。自分を否定する言葉と出会わない、そんな優しい世界で英二は思ったことをそのまま口に出していく。 「恋愛感情なんてさあ。普通の『好き』とどこまでいったら別のものになるのか、俺の方が教えてもらいたいぐらいだよ。それに納得するかどうかは別として、でも俺にはそれが一番向いてる気がするな」 「なに、教えてほしいの? 僕が教えてあげようか」 「は? いや、いい。お前のだけは絶対に勘弁、お前のは絶対に有害だ」 「あ、そう。いいよ、僕のことをそんなふうに言うなんて。今から乾に告げ口してくるから」 「わー! お前はなんでいつもそうなんだよ! ていうか乾関係ないし!」 思わず不二の口を塞いだと同時に出たその声は、余すところなく周囲に響き渡る。コートの中にいた手塚ももちろん気づき、怒声が飛んでくるまでそう時間はかからなかった。 手塚に怒られて、視界がわずかばかり広がる。するとそこには色々なものがあった。 話し込む手塚や乾、大石の姿は変わらずそこにあり、コート奥からは羽目を外しすぎた桃城の笑い声と、それに怒りをぶつける海堂の声も届いてくる。それは2年前の中学3年生当時を簡単に思い起こさせるもので、あの時手にした全国大会出場という感動をリアルに甦らせる。 整髪料が落ち、風になびかされるがままの前髪に頬をさすられながら英二は思い出す。そして馳せる。 2年前の夏、目標としていた夏の全国大会。あの舞台に立つことができた感動を手に入れる権利が、あともう少しでやってくるということに胸を躍らせながら。 「ま、とにかく彼女とかそういうのはいいよ、今は」 思い切り伸びをして、それまでの会話の流れを切る。声のトーンが変わったことに気づいたのだろう、不二が久しぶりにこちらに視線を向けた。 「どうしたの、突然」 「いや、だって4月になったらおチビも高等部に上がってくる。そうしたら」 「インターハイ?」 「そう。また同じメンバーで団体戦に出られるんだから。今はそっちの方が楽しみだな」 桃城が打ったボールが高く空に舞い上がる。ネットを挟んで対峙していた海堂がますます不機嫌の声を上げ、それを大石が宥めに入る。そんな光景は見慣れたもの、けれどいつまでも色褪せることのないもの。見飽きる自信がまるでもてないものだ。 自分はどれだけこのメンバーとのテニスが好きなんだろう、そう思い英二は頬を緩める。 けれど、その時。 「さんの前でも同じことをよく言ってるよね、最近。彼女はどうなの?」 テニスとは全く関係のない言葉が突如、不二の口からもたらされたのだった。 英二は目を丸くして不二を見つめる。不二の視線は既にコートの中に戻っていたが、その横顔には明らかに小さな挑発の色が見え隠れしている。唐突すぎる、そしてまったく予想していなかったこの流れに、英二はただただ唖然とすることしかできなかったけれど。 「なんで今、その名前が出てくるわけ?」 「最近仲がいいから。僕の目から見てもね」 「仲良くなることぐらい別に普通だろ? 不二だって喋って仲いいじゃん」 「喋ることなら僕にだってできるよ。ただそこであの子の感情がどう動くのかはまた別の話ということ」 言葉を返せば返すほど、墓穴を掘っていくような感覚には敵わなかった。 英二は口をつぐむ。感情を表に出さないように、静かに心の中で不二の言葉を何度も何度も噛み砕いて考える。いや、冷静に考えずとも分かった。それは明らかに、感情の移動を促す一言だということぐらい。 英二はため息をつき、フェンスの向こうにいる仲間たちを見つめる。 「言っただろ、俺は人を好きになることは嫌いじゃないの。男子とか女子とか関係なく」 それは今日二度目の言葉。それに偽りはない。 けれど目の前の不二は、どこか曰くありげな笑みを浮かべて英二の次の言葉を待っている。聡明で何事においても頼りになる親友は青学で手に入れることのできた宝のひとつではあったが、こういう場面においては敗北を喫することしかできないのが難点でもある。 英二はしばらく黙っていたが、先に負けるのはいつも自分である。今日もその先例にのっとり、左手で少し髪を乱してから口を開く。 「期待を裏切るようで悪いけど、俺からそういう目で見ることはいからね。絶対」 「……」 「もし向こうがそうなったとしても、俺が変わるつもりはない。だって、あの子は向日の友達だろ? それも相当の」 頭の中に浮かぶには、向日の存在が常につきまとう。それほどまでに自分の中ではセットとして認めてしまっている感覚に素直に従い、因縁のあるその名前を口にする。 それこそ妥当、それこそ真実。そう信じてやまぬ感情のもとに呟いたその言葉に、しかし不二はひるむことはなかった。 「友達同士だったら駄目なんだ」 「は?」 「だから。相手に異性の友達がいたら、それはもう対象外なんだ」 不二が静かに問いかける。コートの中では同じタイミングで手塚が集合を呼びかけ、一斉に仲間の広がりが一点へと収縮していく。 まるでなにかを試されているかのようなその不二の口調に、わずかながら眉をひそめる。しかし反抗の言葉はまるで浮かんでこず、英二は怪訝な表情を浮かべたままフェンスから離れ、そして歩き出しながら呟く。 「最初から候補じゃなくなるんじゃない? 俺、ごたごたするの嫌だもん。だからマネージャーと付き合うなんてことも考えられないんだからさ。というか」 「というか?」 「なんであの子を最初からそういう目で見るんだよ、おかしいだろ。そんな簡単に俺は特別な子を作りません、作れません。お前が一番よく知ってるくせに」 歩きながら答えた言葉は冬風に運ばれる。 それは偽りではない。それは17年間自分の性格と付き合ってきた自分が、と当たり障りのない関係を結んでいる現段階で抱くには問題のない感情だと、英二はその言葉に自信があった。 心で思うよりも、頭で考えるよりも先にその言葉が出る。自分がその感覚に慣れ親しんでいるなによりの証拠ではないか。 その思いとともに横を歩く不二に視線を向けたが、そこには苦笑があるばかりで答えは返ってこなかった。 |
| >>06.サイレン 05/09/02 |