06.青春学園
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 目の前にいないことが、これほど自分を混乱に陥れるとは思ってもみなかった。
 いや、それはひとりよがりもいい考えなのかもしれない。混乱という言葉に寄り添って、自分で見つけたその目の前の壁に無駄なく綺麗に対応しようとした結果、それはあまりに自己保身に満ちていただけだったということだ。

「英二に会ったの?」

 ほうきを持つ不二に問いかける。窓の開け放たれた廊下で不二はゆっくりと振り返る。
 大きな動きながらもほとんどちりが残らない不思議なはき方だった。この人はどこまでも無駄がない、そして人の目にはそれを難なくやっているように見せることができる、と頭の片隅でぼんやりと思いながら、も同じようにほうきを使ってみる。埃は風に舞った。

「会ったよ。ここ最近雨が多かったから、結構会う機会があったんだよね」
「そっか。元気そうだった?」

 うつむいて尋ねる。目を合わせたくないのではなく、表情を見られたくなかった。
 小さな沈黙のあと、肯定の言葉が届けられる。予想を裏切らない展開に自嘲の笑みよりもため息が零れそうになる。

(やっぱり、私がひとりで思い上がっていただけなんだ)

 感情の方向性を決めるには、それで十分だった。
 先日、英二から1本の電話があった。思えばそれは高校生になってからかかってきた数少ない電話のうちのひとつで、あともうし少しで解けそうになっていた宿題も放って電話に出た、あの瞬間が全てだった。
 無理をするなと言われた。どこか縋る響きを持っていたが、けれどその声が英二のものである以上抑圧の色を持っているようにには思えた。場所が異なっても昔のように、という言葉の意味に、今の自分の行動が間違っているから止めろと教えられたような気もした。

「テニスが楽しいみたいだよ。それが目的で進学したんだから、そうなってもらわないと困るんだけどね」

 不二の言葉は、英二の思いを肯定しているようにしか聞こえない。むしろ青学の校舎に入ることができない英二の代弁をしているかのようだ。英二のように直球で、いい意味で遠慮を知らない言葉を使うことはないが、その分中途半端に放り出された言葉の意味を考える時間ができてしまう。そして大抵の場合、それは考えれば考えるほど核心をついていて、感情の起伏に身体が追いつくことができずにはいつも黙ってしまう。
 今日もそうだった。言葉に、ただ不二を見つめることしかできない。

「英二がなんて言ってたか、教えてほしいの?」

 だが今日は違った。唐突な切り口に、違う意味で言葉をなくす。

「最近のさんのことを、英二がどう思って、どう考えて、どうしようとしていたか。教えてほしい?」

 言葉は疑問符を連ねていたが、譜面どおりではないことなどその顔を見れば分かる。不二の目は揺らぐことも逃げることもせず、ただ真っ直ぐにを見つめていた。
 この表情の時、不二はすべて先まで見通している。その感覚に間違いはない。3年間彼と中等部で過ごした記憶は、頭も身体も染みこむほどに覚えてしまっている。だから口は言葉を生めない。
 その反応が予想どおりすぎたのだろう、不二はやがて困ったように笑って首を横に振った。

「教えないよ。というか、言ってないよ」
「……うそ、うそだ」

 思わず否定する。そうあってほしいと思っていながら、そうであるはずがないと現実を無視できない身体が不二を見つめる。不二は笑っていた。

「話題に上らないっていう意味じゃなくて。残念ながら、僕が考えるほど菊丸英二という人間は簡単じゃなかった。……ああ、違うか。違う意味で簡単なんだけど、僕には真似ができないという意味で、とても簡単だった」

 途中からの存在を忘れたかのような語り方だった。自分自身に言い聞かせるかのように、そっと不二は呟いてその後苦笑する。戸惑うの視線にゆっくりと首を横に振った。

さんは、僕にどう言ってほしいの」

 返す言葉はない。それも不二には見破られていただろう。

「……って、分かってるんだけど。でも言わないよ。そんなこと、僕の口より英二の口から聞かないとさんも納得しないでしょう」

 そして気づきたくない本音も、見破ってしまうのがこの男なのだ。
 ほうき片手に、はそっと窓の向こうを見つめる。今日も空は薄い水色だ。高揚するような鮮やかさとは無縁だが、心が落ち着く穏やかさがそこにある。見ているうちに情けなくも笑ってしまったのもそのせいだろう。

「英二の本心なんて、もう聞かされてるよ。私がいかに駄目だったかっていうのを」
「……ふうん?」
「迷惑だったんだろうなあ、って。そうだよね、テニスに集中したいよね。会わなきゃ、何かしなきゃって必死になっていたのは私だけ。それも英二に置いていかれないようにって。私ひとりが違う方向を、しかも全然正しくない方向を向いていた感じ」
「正しくない、ね」
「そう。ひとり置いていかれる感覚についていけなかっただけ」

 掃除の音楽が中盤にさしかかっている。日々聞き続けると耳は嫌でも順応し、自分の身体が今どう動くべきかを学んでしまう。時間が流れることは目に見えない経験を積み重ねることも同義だった。
 ならば今の不安定な感情も、いつしか慣れ親しむものになるのだろうか。当たり前だと思えるほど、時は自分を成長させてくれるのだろうか。
 廊下を掃き終え、ちりとりですくい終えた廊下は昼下がりの陽光に照らされてちかちかと輝いた。

「そういえば、前に英二が校門で待っていたことがあったよね」

 よし、と小さく息をはくと、壁にもたれかかっていた不二が呟く。

「4月に入ってすぐ。あの時の姿は、違和感があったよね。ついこの前まで同じ青学だったのに、制服ひとつ違うだけでやっぱり遠い人に見える。目に見える分、余計に」

 その時の様子を、も覚えていた。不二にとっても忘れることのできなかった光景だったのだろうか、開け放たれた窓の向こうを見つめる瞳があの時とまるで同じだった。どこか驚き、けれどどこか愛しそうに。
 あの日、高校に入学してすぐのあの時。英二はわざわざ青学まで足を運び、の手を握ってくれた。あの温もりは忘れていない。忘れてはいないが、どこか遠い。そう感じてしまうのは昨日の英二の電話と温もりを結びつけることができないためか。にはまだわからなかった。

「校門までしか来れなかった、あの時とまるで一緒だと思うんだけどな」

 その気持ちを知るはずがないのに、不二は頬を緩めてを見つめる。

「一緒って……なにが」
「状況」

 不二の言わんとすることがはっきりと読めない。この親友はいつもそうだ。人の感情をいつも底の見えない渦の中に突き落とすことが上手い。そしては、いまだその手に逆らう術を持たない。

「まだ1ヶ月だよ、そんなに簡単には変わらないよ」
「うん、変わってない。変わってないからこそ、だよ。気づく方向が違うと見えないものがたくさんあって困るよね」
「……不二くん、なにを知っているの?」
「なにも。ただ、僕は他人だからふたりの見えないものが見えるというだけ。当事者じゃないっていうだけだよ」

 また不二が笑う。同じくして掃除終了のチャイムが鳴り、壁を離れた不二がのほうきを受け取って教室へと戻ろうとする。

「ただ僕はふたりの友達だから、僕に見えたものを伝えておきたいと思っただけ。それをどう使うかはふたりに任せるけどね」

 教室の中に不二が消えた後も、は足を動かせない。
 親友はいつも、渦の中に突き落とす。逆らう術はない。けれどその渦が汚れていたことは、決してなかった。





 なにか予感があったのだろう。それを成長としていいのかは分からない。けれど授業が終わり、自由になった身体が最初に手にしたのは鞄ではなく携帯電話だった。

『英二の予想どおりだと思うけど。』

 雑然とした空気の中、英二は携帯電話の画面を見つめて小さく下唇を噛み締める。嫌な予感はどうしてこうも当たるのだろう、と思った頃には机の上にあったものを片付け始めていた。

「どれぐらい? 不二にも話しかけてこない?」

 突然の着信に慌てることなく、電話の向こうの相手は否定の言葉を口にする。片付けをしながら同時に携帯電話の発信ボタンを押していた今の自分は、随分と性急だった。誰かに笑われそうだ。

「ああ、うん。いい。俺行く」

 だが、に笑われるのは不思議なほど不快でない。むしろに笑ってほしかった、笑っていいのはだけだと思った身体は随分と素直に動く。
 呼び止める親友を振りきったという印象はなかった。振りきる以前にその声に気づいていなかったからだ。翌日くどくどと文句を言われることになるのだが、その時の英二にはひとつのことしか見えていなかった。
 部活が休みであったのはなんの偶然だろう。いつもであれば自主練習をするものだが(だからこそ親友が呼びにきたのだが)、その日の思考回路に自主練習という選択肢は存在すらできなかった。
 宿題で必要なものを確認することも億劫で、机とロッカーの中にすべての教科書とノートをしまいこんで学校を後にする。身軽な身体は歩くスピードを速め、駅についてみれば混雑一歩手前の電車に乗り込むことに成功していた。
 都心へ向かう各駅停車の電車。ゆっくりとしたスピードが、窓の向こうの景色を柔らかく見せる。

(俺は間違ってない。に無理してまでいろんなことをしてほしいわけじゃない)

 乗客の少ない座席に腰掛け、ぼんやりとその景色を見ながら英二は昨日のの様子を思い出す。沈黙というよりは言葉をなくしたというべきだった反応に、胸は自然と痛むようにできている。

(間違ってない。でも、には『正解』じゃなかったのかもしれない)

 その思いひとつが今の自分を動かしている意味を考える。電車は考える猶予を与えているのかと勝手に思ってしまうほどゆっくりだった。
 過去、こんな気持ちになったことはあっただろうか。通り行く一級河川の陽光に照らされた川面に目を細める。
 ひとりきりの電車は慣れたようで慣れていない。それは窓の向こうの景色が違うからだという結論をは用意してくれていたし、実際英二もそれに納得してみせたが、こうして考える時間が増えてしまうことを自分が嫌っている事実は誰にも告げていなかった。
 目の前にいないことが、これほど自分を混乱に陥れるとは思ってもみなかった。
 いや、それはひとりよがりもいい考えなのかもしれない。混乱という言葉に寄りかかって、自分で見つけた目の前の壁に無駄なく綺麗に、理想的に対応しようとした自分は、あまりに自己保身に満ちていただけだったということだ。
 英二は自分の行動が間違っているとは思っていなかった。だが正解ではなかった。心は不安の色を消せない。気分が悪かった。どこか不安定で、落ち着かない。自分は間違っていないはずで、それに関しては自信を持っていいと思っていたが、それを上回るこの不安の前に足は負けたのだ。

は、俺よりももっと距離を気にする。だから最近妙に気を張ってた、それは分かってる。……止めるにしても、もっと言葉があったのかな、違う方法だったのかな)

 姿を見られないことに、これほど不安を感じるのは初めてかもしれなかった。
 記憶をいくら漁っても、これほどまでの焦燥感は思い出せない。電車の中で眠りたくとも眠れない感覚など初めてだ。乗り換えの電車の接続が悪いことに腹を立てたことはあっても不安になることなど、想像したこともない。

(どう思っただろう、なにを黙ったんだろう。俺、傷つけたのかな)

 足が一歩前に出るたび、目的地は近づくはずなのに生まれるのは焦りばかりだ。
 電車を降りて見慣れた景色の中に飛び込み、本来であれば自分も着る予定だった制服の波を逆流する。バスは使わない。青春台駅と青春学園を結ぶバスは、学園周辺の住民の足よりは生徒の足と活躍する機会が多い。よって下校時刻のこの時、その本数は朝の半分となるという記憶が足をバス停に向かわせなかった。

(でも、そんなことで簡単に落ち込むとは思えない。思いたくない)

 わがままだろうか。エゴだと呟いた不二の姿は忘れられない。
 けれど、自分の恋人がそれほどまでに弱い人間だとは思っていない。それは不二よりも絶対に自分の方が知っているし断言できる自信が英二にはある。
 たどり着いた青春学園高等部、正門前で英二は校舎を仰ぐ。
 春空に浮かぶ白亜の校舎は壮観だ。中等部時代には見慣れたひとつの光景でしかなかったが、部外者となってしまうといかにこの学園が広大であったかを知る。無関係な人間にはそう感じさせるようになっているのだろうか、頬を撫でた風も心なしか冷たい。英二は眉根を寄せる。

「英二?」

 黙って立ち尽くしていると、背後から誰かが自分の名前を呼んだ。
 振り返るとそこには、高等部のジャージを着た大石の姿があった。
 少しほっとする自分を情けなく感じながら、英二は軽く右手を上げて挨拶に代える。中学の頃と変わらない反応に大石は笑った。

「どうした、こんなところで。久しぶりだな。わざわざ淑徳から来たのか?」
「うん、まあ」
「中に入って……って、そうもいかないか。部外者だもんな。卒業生っていう理由なら通じそうだけど、さすがに高等部の方は難しいか……」

 その顔は大石だ。考えることも大石だ。黙る自分を見て、心配そうに声をかけるのも大石だ。それは中等部時代の記憶としてしっかりと英二の心の中に残っている。
 しかし、と英二は息を飲む。
 突き刺さる違和感に、肌が悲鳴を上げていた。

「なにしてんの、大石は。こんなところで」

 わずかに上ずる。伝わるな、と念じるように拳を握る。

「また新入生に逆戻りだからな、今外周を走ってきたところだ。不二ももうすぐ来るぞ」
「へえ、そっか」
「英二も多分懐かしいんじゃないかな。ほら、外周って言うと中等部と高等部をまとめた時の外のことだろう。だから時々海堂にも会ったりするんだ、元気そうだったよ」
「へえ」

 相槌しか打たない自分を不審に思うな、と訴えるように笑みを作る。
 違和感に言葉が殺されていた。
 見慣れた姿なのに、身につける服装は自分とは縁がない。聞き慣れた声なのに、口にする言葉に同意できない。不二に会った時はあのレギュラージャージが緩衝材になっていたことに今更気づく。

「越前も、『気が向いたら戻ります。いつか』って言ってくるんだ。相変わらずだよなあ」
「おチビが?」
「ああ。メールでな。手塚はいないぞ、って言っても『もうお守りはいい』って。身長が伸びたって自慢していたな、そういえば」

 知っている名前ばかりなのに、自分が存在できる隙間がない。
 今まで自分の居場所とされていたところが、いつしか空気に代わっている。その事実を知るには十分だった。
 これが外部の人間になるということか、と改めて思う。違和感は幾分か影を潜め、慣れた心臓が動揺を潰す。相変わらず返せる言葉は持たなかったが、そんな自分を冷静に見つめるだけの力は戻りつつあった。

さんに会いにきたのか?」
「え?」

 唐突な質問に目を丸くする。だが大石は落ち着いていた。

「英二がここに来る理由って言ったら、テニス部かさんだろう。そしてテニス部に用事があるなら俺に連絡をしないはずがない。というわけで、さん。違うか?」
「……いや、違わないよ」
「だろう」

 大石は嬉しそうに笑った。どうしてこの親友は人に関してここまで優しくしてくれるのだろう、と思う。大石本人は優しさのつもりで言っている気はないのだろうが、表情や口調が優しさを隠しきれていない。
 青学とはそういうところだった。大石を見つめ、空を見つめ、校舎を見つめて思う。居心地の良さが染みこんでいる。優しさが辺りにちりばめれている。
 そんな青学が、自分とを繋ぐ場所だった。

「あ、噂をすれば」

 大石の声に従うことしか知らない瞳は、正門前の昇降口に目を向ける。
 英二はゆっくりと瞬きをし、その姿をしっかりと視界中央におさめる。どれほど距離があろうとも、その姿を見間違えることなどない。違う制服を身にまとっていようとも、制服に負けるような想いは抱いていない。
 校舎から出てきて数歩、そこで足を止めたを、英二は真っ直ぐに見つめた。

「行かないのか?」

 問いかける声に首を傾げる。迷ってのことではない。
 ただ、心の中に積もっていく思いの前に、言葉は出てこない。

(青学って、味方だと思ってた)

 身勝手な理由だと笑われることは分かっている。笑われるどころか呆れられるだろう、それこそ大石にも。それも分かる。
 けれど目の前の現実に、英二は勝手ながらもそう思う。
 目の前にその姿を見つけながら、正門という境界線の前で足は動くことを許されなかった。
 冷たいと思う風がまた流れていく。髪を泳がせ、視界を遮る。まるで見るなとでも言うかのようだ。
 目の前にいないから不安になるのだと思っていた。視界に映らないから寂しくなるのだと考えていた。だから目に映る範囲に身をおさめようとしていたのだと、その結果安直に抱きしめてしまう自分がいたとしても、それを許してくれているのだと英二は思っていた。
 だが実際はどうだ。目の前にいながら、手を出せない距離がある。それは走れば解決できるものではない。手を伸ばせば済む話ではない。
 英二はただ静かに、自分を包む周囲に目を向ける。
 無関係となった青学の校舎、無関係となった大石のジャージ姿、無関係になった青学高等部の制服姿の生徒たちの視線。

(これを浴びたら、不安になるに決まってる)

 英二はぐっと拳を握り締める。今度は先ほどのような緊張からではない。力強く、自分の行動を伝えるために強く強く握り締める。
 の名前を呼ぶまで、そう時間はかからなかった。
 校舎の中には入れない。だから呼ぶ。この空間の中で発揮できるものといえば、が信じてくれる声だけだ。逆に言えばがいなければ、この場の自分というものはまったくもって意味がない。
 この感覚を、は先に見つけてしまっていたのだ。あの日、夕方。自分が校門前で待たせてしまったあの瞬間に。

(絶対悩むに決まってる。気にするに決まってる、考えるに決まってる。弱いとかそんなのじゃない、そんなことどうでもいい。気にならない方がおかしい)

 それは、大石よりも不二よりも、青学の誰よりも自信をもって言えることのひとつであるべきだった。
 緊張の眼差しで、が英二の前にまでやってくる。これほどまでに小さな身体だっただろうか、としばらく見つめれば、緊張がそうさせていることに気づくまでの時間が省けた。

「ごめん、俺が悪かった」
「……え? ちょ、ちょっと英二!」
「今日1日俺に付き合って。大石、ごめんまたね!」
「ああ、またな!」

 経緯を知らない親友は、心からの笑顔で手を振ってくれる。
 途中すれ違ったランニング帰りの不二には笑われたが、それでも英二はの手を離そうとはしなかった。
 青春学園中等部の景色が映る。見慣れた後輩の姿が増えてくる。それはも同じことで、あからさまに繋いだ手に動揺していたがもはやそれに付き合っている余裕はなかった。

「英二、一体どこに……!」
「いいから、いいから。大丈夫だって、知ってるところしか行かないから」

 気づけば、風は春の優しさを取り戻している。頬を撫でられて顔を上げれば、懐かしい中等部校舎が悠然とそびえ立っている。
 出会った場所だけは、どれほどの時が流れようとも安寧をもたらしてくれる。
 見つめ、頬を緩める。青学は決して忘れることのできない場所だ。
 その時まるで返事をするかのように陽光が中等部校舎の窓を照らし、春の風の中にまどろんでいた。



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>> 07.君に約束する